株式会社 エフ・ティ・エス コーポレーション 《新対向ターゲット式スパッタ装置 NFTS 専門真空メーカー》 ・・・ 【透明断熱フィルムの開発】

 透明断熱フィルムとは透明で(可視光を透過し)、熱エネルギー(赤外線)を遮断するフィルムであり、ガラス窓の断熱効果と飛散防止の側面からもガラス窓の多いビル、自動車等の省エネルギー技術の1つとして注目されています。

 夏場はガラス窓を通して車内や室内へ貫流する熱エネルギーを抑制し、冬場は車内や室内で生じる遠赤外線が窓から外部への流出を防ぐことができる環境にやさしい製品としてらこれまで30年の歴史があります。

 しかし、その原理は、太陽光の中の可視光を透過し(透明性)、熱線である赤外光を遮断する(熱遮断)フィルターであり、透明性を上げると熱遮断特性が低下するという問題があり、これまでは窓に必要な透明性を確保すると熱遮断特性が低下し、期待したほど省エネルギー効果が得られず、まだ普及していないのが現状です。近年、京都議定書に象徴されるビルのガラス窓の断熱による省エネを推進するには従来の透明断熱フィルムから1歩抜きん出た高性能化が必要です。

 また、透明断熱フィルムには吸収型と反射型があり、その2種類を区別することが重要です。吸収型透明断熱フィルは太陽光に含まれる赤外(熱)線を吸収することにより室内への輻射熱の進入を遮断します。しかし、吸収した熱によりフィルム温度が上昇し、貼り付けた窓ガラスを通してその熱の約半分を室内に伝達するため、高い省エネ効果が得られにくくなってしまいます。

 一方、反射型はフィルム上に銀薄膜など反射率の高い金属膜をコートし、酸化膜でその金属膜を挟むことで光の干渉効果により透明性を出します。反射型は赤外線を入射方向に反射することで室内への輻射熱の進入を遮断します。吸収型のようにフィルム温度が大幅に増加しないため、高い省エネ効果がえられます。

 弊社は、反射型透明断熱フィルムにおいて、可視光透過率が70%以上、太陽熱遮断が55%を超える高性能透明断熱フィルムを目標とし、NFTS技術を核とした、高速かつ低温で酸化金属膜からなる透明な高屈折率薄膜を形成する技術の組み合わせにより、前述の高性能透明断熱フィルムが得られることを確認し、その大量生産技術の実現に取り組んでいます。

 これまで透明断熱フィルムあるいは省エネフィルム等として販売されている製品サンプルと現在開発中のNFTS技術により形成したサンプルを比較します。 建築窓ガラス用フィルム(JISA5759)で規定されている評価法によって換算した可視光透過率と遮蔽係数において、市販製品との比較を図1に示す。

 右図に示すように70%の可視光透過率では、市販製品の遮断係数0.66(太陽光エネルギーの34%カット)に対してNFTS技術によるサンプルでは0.55であり、30%程度省エネ効果の向上となっていることが分かります。これら省エネルギー効果の差異は、後述するように多層膜の界面における薄膜の構造の違い、とりわけプラズマ衝撃による格子配列の乱れの影響によるともの考察されます。

 下の図は従来技術により形成した市販製品とNFTS技術により形成した開発品のそれぞれ断面TEM写真です。 まず図(a)の市販製品(多層膜構造)の断面TEM像から、作製時における応力が原因と考えられる膜破断による透明な亀裂と10nm程度の半透明Ag層が球状に凝集することで生じる横方向の透明な空層が観察されます。半透明を必要とするAg系薄膜は大気中の長期間放置すると緩和によりAgが移動し凝集してしまいます。

 そのため、TEMによる断面観察においても30nmφ程度の球状Agが観測され、堆積した10nm程度のAg層は空層の痕跡となっていると考えられる。次に、図(b)の作成後数年間大気中に放置したNFTS技術で作製した5層構造の透明断熱フィルムの断面TEM像では、5層を構成している2層のAg層(黒)、3層の透明酸化膜(半黒色)との界面にはAgが移動して凝集してると様子は見らず、各層の界面は均一な面が保持されています。この均一な界面の積層構 成により高品質の光学特性が得られ、かつ経時劣化も殆どない透明断熱フィルムが実現できたと考えられます。



▲ 透明断熱フィルム断面TEM像

 従来型透明断熱フィルムは現在吸収型、反射型共にフィルムに糊をコートし、窓ガラスに貼り付けることにより広く用いられています。 吸収型フィルムは赤外(熱)線をフィルムが吸収し、その熱の半分をフィルムを貼り付けた窓ガラスを通し(熱伝導により)室外に逃がすため、窓ガラスへの貼り付けは必要です。 しかし、反射型透明断熱フィルムの場合フィルムにより赤外線を反射しガラス窓を通して外に逃がすため、赤外線の遮断による省エネという観点からは必ずしもフィルムを窓ガラスに貼り付ける必要はありません。

 右図に示すように、窓ガラスに対してある一定の距離離し反射型透明断熱フィルムを設置しても原理的には同様の省エネ効果が得られます。 また、この構造は窓ガラスとフィルム間の空気の流れ(対流)を抑制することができれば複層ガラスのように、熱伝導も抑制することが可能です。

 この場合、透明断熱フィルムはコートした膜の劣化を防ぐため透明なプラスチックフィルムもしくはプレートとラミネート(張り合わせ)を行います。 そのため、構造としてはベースとなるPETフィルム/コート膜(酸化膜・銀合金薄膜)/プラスチックフィルムもしくはプレートとなり、全体としてシート状になります。 この構造により透明断熱フィルム(シート)は窓際から容易に取り外すことができ、丸めて収納することも可能です。

 現在当社では、これら特長を生かした反射型透明断熱フィルム応用製品の開発および使用用途の開拓を行っています。 反射型透明断熱フィルムを用いた新しい用途・製品に関して興味のある方はお気軽にご連絡頂ければと思います。

   連絡先  TEL:042-770-9403   E-mail:yutaka-nakamitsu@ftsc.co.jp  担当:中光




弊社で開発した透明断熱フィルム製造装置(ウェブ式新対向ターゲット式スパッタ装置)により製造した1m幅透明断熱フィルムを建物のガラス窓に設置し、透明断熱フィルムの効果、信頼性を現在検証しています。  

設置場所:さがみはら産業創造センター2号館5階南向きガラス窓

ガラス窓設置テストに使用した透明断熱フィルムの光学特性は
可視光透過率:70%
遮蔽係数:0.55
※ 測定方法:1mm厚ガラスに貼り付けた状態。

測定には日本分光製分光器(型番:V-670)を使用。

上記ガラス窓において、2007年、2月、3月の快晴日を選びガラス窓を通して室内に侵入する太陽エネルギーを放射強度計により評価を行いました。その結果を以下に示す。

太陽エネルギーに対する評価結果

 ※ 測定には石川産業株式会社製放射強度計(型式:S-150)を使用。

室内温度に対する評価結果

  測定日:2.27日 (温度計を直接太陽光に当て評価した結果)

    ● 窓ガラスのみ ⇒ 33.5℃
    ● 窓ガラス+透明断熱フィルム ⇒ 22.5℃

ただし、温度の違いは測定日の気温によっても左右されるため、透明断熱フィルムの性能としては上記の放射強度計による測定結果の方が信頼性が高いと考えられます。      

 透明断熱フィルムは省エネ効果の観点から室内の遮熱効果が重要となります。 そこで、以下に示す熱の出入りが少ない発泡スチロール容器をガラス板もしくわガラス板+透明断熱フィルムで容器開口部を密封し、その上部から屋外照明用ハロゲンランプ(500W)により熱を加えた際容器内の温度上昇と容器内に設置した熱吸収率が高い黒色のプラスチックの表面温度の温度上昇について検討を行いました。

評価結果

 以下のグラフはハロゲンランプ点灯から40分(2400秒)間のガラス板のみの場合とガラス板+透明断熱フィルムの場合における容器内の温度(実線)と黒色プラスチック表面(破線)の温度上昇をそれぞれ示しています。

 上記のグラフからハロゲンランプ点灯後、透明断熱フィルムによる温度上昇抑制に大きな違いを確認することができます。 さらに、弊社の透明断熱フィルムは熱の原因となる赤外線反射性能が高いために、熱吸収率が高い黒色プラスチックの表面温度において容器内温度と大きな差が生じないことを確認することができます。
最後に、上記の実験においてハロゲンランプ点灯から40分後の温度変化を以下の表に示す。





▲実験環境概略図




▲ 温度変化実測データ

 筆者は帝人時代にレフテル開発に従事した体験及び垂直磁気記録媒体研究を通してPETフィルム等の低温高分子フィルムに高品質な透明酸化層を高速で形成する技術が存在しないこと、酸化層の界面に半透明金属層を均質に形成する条件がマグネトロンスパッタでは極めて困難なことを体験しました。 一方、弊社の新対向ターゲット式スパッタ(NFTS)技術は酸化層形成といったリアクテイブスパッタでもプラズマ拘束の原理特徴から従来の薄膜作製技術と一線を画する性能を有すると予測していました 1)。 NFTS技術の特長である堆積基板表面ではプラズマフリー状態で膜形成できることから金属層と酸化層といった異種界面も原子オーダーでの均質界面形成が期待できます。

 太陽光線を構成している可視光と熱線からなるエネルギーの実態は広範囲の電磁波であるため、反射及び透過特性を重視した光学フィルターとしての透明断熱フィルム及びガラス基板への貼付を考えると、プラズマ振動を活用する半透明銀合金薄膜と透明酸化膜の多層膜構成が必然と考えられます。 実用化の課題として長期間使用での銀合金の凝集による特性劣化をNFTS技術の開発で実用レベルまで抑制する必要があります。 少なくとも市販製品と比較して耐久性においても遜色無いことをNFTS技術による緻密で応力フリーの薄膜構成を実現しやすいと推定しました 2)。 かつ、京都議定書に象徴される環境に優しい省エネ技術として次世代透明断熱フィルムを実現することが、産業界に課された責務の一つであると認識しています。 これらの観点から会社の実力に合わせて次世代透明断熱フィルムの上市に係る技術開発を進めています。

○ 平成13年8月~13年12月
平成13年度課題対応新技術研究調査事業(No;13-215)として、中小企業総合事業団による委託事業として「新対向ターゲット式スパッタによる透明断熱フィルム技術に関する研究調査」を実施。

○ 平成14年8月~16年1月
上記新技術調査事業(No;13-215)の成果を受けて、平成14年度課題対応新技術研究開発事業(No;14-203)を実施。

○ 平成17年11月~19年3月
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構による助成により、量産化技術および製品信頼性の検討を実施。

1) Sadao Kadokura and Masahiko Naoe; “Microstructure and Tribological Properties ofCo-Cr Thin Films Deposited by Facing Targets Sputtering and Magnetron SputteringMethods”; Mat.Res.Soc.Symp.Proc.Vol.239, pp653-658 (1992)
2) Masahiko Naoe and Sadao Kadokura; “Voidless Grainboundary Growth Process of Co-Cr Thin Films”, J.Magnetic Society of Japan Vol.18, Supplement, No.S1pp331-334 (1994)