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従来型対向ターゲット式スパッタリング(FTS)の原理と特徴
対向ターゲット式スパッタの基本構造
対向ターゲット式スパッタ法(FTS)は現在広く使用されているマグネトロン式スパッタ(MS)とは構造、原理が異なります。 図1に示すように、FTS法は形成する薄膜の材料となるターゲットプレー2枚が対向するように配置し、薄膜を堆積させる基板はその対向ターゲットと垂直方向に設置する構造となっています。
また、対向したターゲット間に磁場を形成する磁石はMSと同様にバッキングプレートの背面に配置しますが、向かい合うターゲットに配置される磁石の極性は異なっています。 そのため、形成される磁場は対向するターゲットユニットの周囲を取り囲むような構造となり、形成されるプラズマはこの磁場構造によって対向ターゲット間に強く拘束されます。

図1 FTS概略図
対向ターゲットのスパッタ原理
この対向ターゲット間に拘束されるプラズマ内には大量の電子が存在し、その電子の大半はArイオンがターゲットをスパッタした際ターゲットから放出される2次電子です。 この2次電子はターゲットから放出された後、ターゲット表面に形成されるカソードシースによりもう一方のターゲット方向に加速されます。 この加速され高いエネルギーを持った電子は対向するターゲット間に形成される磁束に巻きつきながら、もう一方の対向したターゲット方向に達すると、そのカソードシースにより跳ね返されます。 そのため、電子は対向ターゲット間を往復運動します。
そのうちいくつかの電子はこの往復運動の途中にArガスと衝突することによりArをイオン化します。 この正電荷を持ったArイオンはターゲット表面近くに達するとカソードシースでターゲット方向に加速され高い運動エネルギーを持った状態でターゲットと衝突しターゲット材料をスパッタします。 このスパッタされたターゲット材料のいくつかは基板表面に達し基板上に薄膜を形成します。
FTS法では対向ターゲット間に高エネルギーの電子を強く拘束するため、ターゲットと垂直方向に設置した基板表面には衝突しないので、基板や基板上へ形成した薄膜にダメージを与えることがほとんどありません。 また、酸化物ターゲットや酸素ガスを導入した反応性スパッタの場合問題となる、ターゲットから放出される高エネルギーの酸素イオン(負イオン)も高エネルギー電子同様基板表面に影響を与えることはほとんどありません。
一方、従来式MS法では基板とターゲットが向かい合っており、ターゲット背面に設置した磁石から放出される磁束の一部が基板を通るため、ターゲットから放出されカソードシースで加速され高エネルギーを持った電子は磁束に巻きつきながら基板に衝突し基板や基板上の薄膜にダメージを及ぼすとともに、ジュール熱により基板の温度上昇をもたらす。
FTSによる形成薄膜の特徴
次に、FTSにより形成される薄膜の特徴を従来型マグネトロン式スパッタ法(CMS)と比較しながら説明します。先に説明したように、FTSは2枚のターゲットが対向した構造をし、その対向空間にスパッタリングプラズマを形成し基板はその脇に設置します。このプラズマを対向空間に強く拘束するため基板表面はプラズマの影響を強く受けることはありません。一方、CMSはターゲットと基板が対向した構造をし、スパッタリングプラズマはターゲット表面に形成します。そのため、基板表面はスパッタリングプラズマ(電子や高エネルギー粒子)の影響を強く受けてしまいます。このプラズマから基板表面に放出される大量の電子はジュール熱となり基板表面温度の上昇をもたらします。また、基板表面への高エネルギー粒子の衝突は形成薄膜にダメージをもたらし膜質の低下を引き起こします。
ある場合において、このような高エネルギー粒子の薄膜への衝突はそのエネルギーを薄膜に伝え膜質の向上をもたらすとの見解があります。しかし、多くの場合高エネルギー粒子の衝突は強い膜応力や粒界欠陥、膜間に荒い界面の形成等を引き起こす原因となります。そのような心配の少ないFTS法は耐熱温度の低いプラスチックや有機基板、プラズマダメージの影響を受けやすい半導体などの対して有効な成膜方法となります。また、FTSはCMSと比較しスパッタリングプラズマや構造の違いから反応性スパッタにおいて高い反応性を持ち、さらにRF電源を使用することなく酸化膜や窒化膜を高速に形成できる特徴を持っています。
FTSのエロージョン形状
最後に、従来型FTSとCMSの大きな違いであるエロージョン形状について説明します。図2にはそれぞれの方法におけるエロージョン形状の概略図を示します。これらの違いは形成されるプラズマ形状によるものです。従来型FTSの場合、対向ターゲット間に形成されるプラズマはその周囲の強いプラズマ拘束により中央に集中するためターゲットの中心部分が主に削られ、ターゲット表面周囲が残りやすい傾向があります。一方、CMSではマグネトロン放電によりドーナツ状のエロージョンが形成されるため、中心部分が残留する傾向にあります。高いターゲット使用効率を得るためにはターゲット全体を均一に使用することが望まれます。

(a) 従来型対向ターゲット式スパッタ法 (b) 従来型マグネトロン式スパッタ法
図2 エロージョン形状
FTS技術の問題点
これまで説明したように、従来型FTSはCMSと比較し優れた特徴を持っている一方、いくつかの大きな問題点を抱えています。特に、大型矩形ターゲットを用いた場合のスパッタリングプラズマの不安定や装置構造の複雑さは大きな問題となります。このプラズマの不安定はターゲット角部の磁場強度の不均一さやプラズマ内をドリフトしている電子の走行方向の急激な変化が主な原因と考えられています。正方形小型ターゲットを使用した場合、その対照性から安定なプラズマを形成することができますが、大型矩形ターゲットを使用した場合上記の原因によりターゲット角部においてプラズマの歪みが生じ、プラズマの不安定さ(異常放電頻発)をもたらす傾向にあります。CMSにおいてもFTSと同様に大型矩形ターゲット角部に生じる問題は “cross corner効果”として知られています。しかし、MSでは対向空間にプラズマを拘束するCFTSとは違いターゲット表面にプラズマを拘束するため、その影響はCFTSほど大きくないと考えられます。そのため、CFTSでは量産装置で必要となる大型矩形ターゲットを使用した場合のプラズマ安定性の改善が必要となります。
次に、装置構造の複雑さに関して、これまで説明したように、対向ターゲットは2枚のターゲットが向かい合った構造をしており、従来型FTSはこの対向ターゲットユニット全体を真空容器内に設置する構造となります。そのため、このターゲットユニットを収納する大きな真空容器が必要となります。この構造の場合、真空容器内の多くの部分にスパッタ粒子が飛び散るため防着板を多用する必要があり、またターゲットユニットに供給する冷却水や電源は大気側からフィードスルーなどを通してターゲットユニットに供給する必要があります。そのため、ターゲットの交換などのメンテナンスに大変な手間がかかってしまいます。
以上の問題に対してNFTS技術では様々な工夫を施すことにより改善を行い、コンパクトでシンプルな装置構造を持った量産に対応した装置を実現しました。以下にその説明を行います。
新対向ターゲット式スパッタ (NFTS)技術の特徴
FTS技術からの改良点
NFTSは従来型FTSと比較し様々な改良を加えていますが、ここでは従来型FTSで大きな問題となっている大型矩形ターゲットを使用した場合のスパッタプラズマ安定性と装置構造の複雑さの2点について説明します。まず、安定なスパッタプラズマの形成に関して、先に説明したように従来の方法では大型矩形ターゲットを用いた場合対向ターゲット空間に均一で安定なプラズマを形成することは大変困難です。そのため、NFTSでは従来の対向空間に拘束するプラズマと同時に安定性の高いマグネトロンプラズマをターゲット表面に形成することで安定なスパッタリングプラズマの形成を実現しました。
その方法は図3に示すNFTSプラズマ源の概略図から分かるように、従来型FTSでターゲット背面に配置した磁場形成磁石をターゲット外縁部に配置します。この磁石配置はターゲットの縁において磁石の自己リターン作用によりターゲット表面にマグネトロンプラズマを形成します。この磁場構造は大型矩形ターゲットにおけるスパッタリングプラズマの安定性を高めるだけではなく、エロージョン領域を広げる働きもします。そのため、NFTSでは高いターゲット利用効率が得られます。図4には120x120mmサイズの小型金属ターゲットのエロージョン形状を三次元測定器で測定した結果を示す。この図からNFTSではターゲット全体に対して均一なエロージョンが形成されることが分かります。

図3 NFTSプラズマ源概略図 図4 エロージョン形状
プラズマ源の箱型化
次に、従来型FTSにおける装置構造の複雑さに関する改良について説明します。NFTSでは複雑な装置構造を避けるため図5に示すように、ターゲットユニット全体をコンパクトな箱型構造としました。FTSにおいてこの箱型のプラズマ源の開発は大変進歩性が高かったため範囲の広い特許を取得しています。この箱型プラズマ源は3次元構造の金属フレームにターゲットのユニットを対向する形で設置し、その他の部分は金属プレートで閉じたシンプルな構造となっています。
また、この箱型プラズマ源は大気側から真空容器に容易に脱着できるようになっているため、ターゲットの交換等の作業性を大幅に向上させました。さらに、この装置構造はプラズマ源を真空容器と分離するため、真空容器は基板を搬送できる最小限のサイズとすることで真空容器の大幅な小型化を実現しました。さらに、ターゲットユニットに供給する冷却水や電源はフィードスルーなどの通すことなく大気中から供給することができる構造となっています。これらの改善により、NFTSではコンパクトでシンプルな装置構造と高い操作性、メンテナンス性を実現しました。

図5 箱型プラズマ源
NFTS技術の応用
以上の改良を施したNFTS技術は低い耐熱温度を持つ大型基板に対して大変優位性の高い成膜技術であると言うことができます。現在、この特徴は有機ELディスプレーにおける有機物上への透明電極形成など様々な用途で使用されはじめています。また、このNFTS技術の特徴を最も生かした量産装置としてRtoRに対応した薄膜形成装置が挙げられます。これまで、フィルム基板への薄膜形成技術として冷却ドラムを搭載した大型のMS装置が一般的に使用されています。しかしこれらの装置は大変大きな真空容器が必要とし、また複雑なフィルム搬送となるため、装置の導入に高額なコストを必要とします。
一方、NFTS技術ではフィルム基板に対して低温状態で必要とする薄膜を形成できるため冷却ドラムを必要としません。このことは、真空容器の小型化、シンプルなフィルム搬送系を実現することができ装置価格の大幅なコストダウンを実現します。以下に、実際弊社で開発した1m幅のウェブ式NFTS装置の説明と本装置により作製した透明断熱フィルムについてそれぞれ行います。
量産用ウェブ式NFTS装置と高性能透明断熱フィルムの作製
NFTSの特徴を生かした量産技術
これまで説明したように、NFTS技術は従来型MS技術と比較し、低温、低ダメージにおいて高品質薄膜を形成することができ、さらに従来型FTS技術と比較し、量産装置で重要となるスパッタリングプラズマ安定性、コンパクトでシンプルな装置構造を実現しました。弊社ではこのNFTS技術の特徴を生かした1m幅フィルム対応の量産用ウェブ式NFTS装置を作製し、透明導電膜(TCO)と銀合金の5層構造からなる透明断熱フィルムの製造を通して、NFTS技術の量産性の実証を行いました。(透明断熱フィルムとは可視光を透過し、赤外線を反射する性質を持つ機能性フィルムです。建物や車などの窓ガラスに設置することで、窓ガラスを通して出入りする輻射熱を抑制するエコ製品です。)以下に、量産用ウェブ式NFTS装置の特徴とこの装置により作製された透明断熱フィルムをMS法で作製された市販製品との比較することでその薄膜性能について説明します。
量産用ウェブ式NFTS装置概要
まず、図6に本装置の概略図を示します。この図から分かるように、本装置はNFTSプラズマ源を3式搭載しており、その中央に銀合金プラズマ源と左右にはTCOプラズマ源1式ずつ設置しています。それぞれのプラズマ源にはターゲットサイズは12×130cmの矩形ターゲットを使用しています。排気はフィルムロール格納室にそれぞれ1式のクライオポンプを設置し真空容器全体を5.0×10-4Paに保つことができます。また、本装置の特徴として従来型ウェブ成膜装置で必要となる冷却ドラムを必要としません。NFTSプラズマ源の特徴である箱型プラズマ源内部にスパッタリングプラズマを強く拘束することにより基板への電子を抑制することで、基板温度の上昇を抑制するための冷却ドラムを必要とせず高速に薄膜を形成することができます。この冷却ドラムを必要としない装置構造は真空容器の大幅な小型化とシンプルなフィルム搬送系を実現しました。さらにこのことは、簡便なメンテナンス、信頼性の高い製品の製造だけでなく、RtoR方式によるフィルムへの薄膜形成装置価格の大幅なコストダウンつながりました。

図6 量産用ウェブ式NFTS装置
高性能透明断熱フィルムの作製
次に、本装置による透明断熱フィルムの作製とその性能について説明します。弊社作製の透明断熱フィルムは50μm厚PETフィルム上にTCO/Ag-alloy/TCO/Ag-alloy/TCOの5層構造を基本します。そのため、本装置では片道TCO/Ag-alloy/TCOの3層を同時に形成することで、フィルムの往復により5層構造を形成します(光学的条件から中央のTCO膜厚は上下のTCO膜厚の約2倍必要である)。このとき、NFTSでは酸化物薄膜作製においてターゲット材料との組成ずれが少ないことから、反応ガスである酸素をほとんど必要としないため、Arガスを主成分とする雰囲気においてそれぞれの成膜領域を厳密に仕切ることなくTCO、Ag-alloy薄膜を同時に形成することができます。
高性能透明断熱フィルムの性能
図7にはこの装置により作製した弊社透明断熱フィルムと市販製品(5、7層構造)の初期状態における光学特性の比較を示します。この図から分かるように、可視光領域ではすべてのサンプルにおいてほぼ同等の透過率を示しますが、赤外線領域において弊社透明断熱フィルムは市販製品と比較し10~20%高い反射率を持ちます。このことは多層膜構造において良好な界面が形成されることにより光の散乱による吸収が少ないことを意味しています。市販製品では光選択性を増すために7層構造と積層数を増加させていますが、弊社作製の透明断熱フィルムでは良好な界面特性により5層構造においても高性能な光学選択性が得られることが分かります。

図7 透明断熱フィルム光学特性
MSによる透明断熱フィルムとの違い
次に、図8に大気中において3年程放置した弊社透明断熱フィルムと市販製品(7層構造)を透過電子顕微鏡(TEM)による断面をそれぞれ示す。弊社透明断熱フィルムでは層状のきれいな銀合金層(黒色)とTCO層(色)が観測されます。一方、市販製品では銀薄膜層において凝集により球状になっていることが分かります。さらに、酸化膜層において強い応力が時間の経過により緩和する際に生じる亀裂が形成されていることが分かります。この銀の凝集や酸化膜の亀裂により透明断熱性能は低下します可能性があります。

(左) FTS社製(5層構造) (右)市販製品(7層構造)
図8 透明断熱フィルム断面TEM像
以上のように、コンパクトでシンプルな量産用NFTS装置により作製した透明断熱フィルムをMS法により作製された市販製品と比較することでNFTS法の優位性を確認しました。弊社独自に開発したNFTS技術は上記ウェブ式装置だけではなく基礎研究用小型NFTS装置、インライン式NFTS装置、基板静止型NFTS装置とお客様の様々なニーズに対応するためにラインナップを揃え、様々な薄膜形成分野において解決できなかった問題、課題に対して答えを提供できる可能性のある成膜技術である考えております。
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基板とターゲット面とが向かい合ってプラズマ空間を形成するマグネトロン式スパッタ(MRS)法では、基板温度やスパッタガス圧により薄膜のモフォロジーが変化します。MRS法による薄膜形成の場合スパッタ粒子の運動エネルギーが小さいため基板表面のミクロな凹凸に対して粒子が成長しやすく、かつ基板表面入射する粒子の方向性に沿って柱状粒子が成長しやすい性質があります。このため、粒子界面には微小空隙(ボイド)が生じ、緻密な膜が得られにくい傾向があります。また、金属化合物薄膜や酸化・窒化膜を形成する場合には希土類や酸素、窒素ガス等を用いるためターゲット表面から放出される電子や負イオンがターゲット表面に形成される強い磁界(カソードシース)で反射エネルギーを与えられ高い運動エネルギー(100eV程度)を保持したまま基板に入射し基板表面にダメージを与えてしまいます。このため、基板表面にはプラズマ衝撃が局所的に加わり薄膜には内部応力が残留しやすい性質があります。
一方、対向ターゲット式スパッタ(FTS)法の場合には対向するターゲット間の磁界によりプラズマを拘束、プラズマ空間ではγ電子、反跳Ar、スパッタ粒子などは互いに衝突を繰り返しArのイオン化やスパッタ粒子のイオン化を促進します。そのため、飛来した基板上で移動度が高くかつ面上で全方向に移動しつつ固化します。さらに、FTS法の場合基板はターゲット表面と直角に配置しており、ターゲット端部数10mm離れた側方の空間におかれているため基板表面を衝撃するプラズマを排除できる機構となっています。このことによりプラズマフリーを実現することができ、結合エネルギーが数eV程度からなる有機物(有機半導体、有機EL、バイオ材料)上への電極形成などを実現できます。以上のようにFTS法はスパッタ粒子のエネルギーが高いことと基板表面へのプラズマ衝撃を抑制することにより、短距離的に粒子が一様に配置する微細構造粒子が緻密に積層したモフォロジーの膜を形成することができる成膜技術です。最後に、図1にはCo-Cr-Ta薄膜の断面TEM像を示します。この断面TEM像から粒界に欠陥が見られない緻密な薄膜構造であることが分かります。

【積層膜】透明断熱フィルム
透明断熱フィルムとは太陽光可視光(近紫外の波長400nmから近赤外の波長650nm)透過率70%以上で太陽熱線となる赤外線遮断が30%程度となるフィルムであり、夏場は車や建築窓を含むガラス窓を通して貫流する太陽エネルギーを抑制し、冬場は住環境で生じる遠赤外線が窓から外部への流出を防ぐことができる環境にやさしい製品です。
透明断熱フィルムの構造は半透明な高伝導性層と高屈折率な透明酸化膜をそれぞれ数10nmの膜厚で3層あるいは5層、7層と多層膜とすることで電磁波に対するローパスフィルターを構成することで製品化が実現されています。下の図2の断面TEM像はポリエステルフィルム(PET)上に、マグネトロン式スパッタ法により形成したサンプルとNFTS技術により形成したサンプルをそれぞれ断面TEMにより比較を行いました。まず(a)に示すマグネトロン式スパッタ法によって作製した(多層膜構造)の断面TEM像から、成膜時における応力が原因と考えられる膜破断による透明な亀裂と10nm程度の半透明Ag層が球状に凝集することで生じる横方向の透明な空層が観察されます。この原因として、銀系薄膜は大気中に放置するとAg原子の移動により凝集する性質を持っており、薄膜中のAg原子の移動はAg原子同士の結合が弱い部分から起こる傾向にあります。この結合が弱い部分は成膜中加わる反跳粒子などの高エネルギー粒子の衝撃が原因だと考えられます。
以上の原因により、TEMによる断面観察においても30nmφ程度の球状Agが観測され、堆積した10nm程度のAg層は空層の痕跡となっていると考えられます。一方、(b)にはNFTS技術で作製した5層構造の透明断熱フィルムの断面TEM像を示します。本サンプルは作製後数年間大気中に放置したもので、2層のAg系薄膜と3層の透明酸化膜の5層を構造となっています(黒色がAg薄膜、半黒色が透明酸化膜)。この断面TEM像からAg原子の移動による凝集などは観測されません。NFTS技術により形成されたAg薄膜は成膜中高エネルギー粒子などの衝撃を受けることがないためAg原子同士の弱い結合を形成することなくAg原子の凝集を抑制していると考えられます。

図2 透明断熱フィルムの断面TEM像
【超伝導薄膜】 PCMO(Pr0.7Ca0.3MnO3)薄膜の低温結晶化
現在光学部品を初めとして、結晶構造を持つ酸化膜・窒化膜の需要が増加傾向にあります。結晶構造を持つ薄膜形成にはCVD法が広く用いられていますが、スパッタ法により高品質の薄膜が低温で形成することができれば製造コストの低下と製品の信頼性向上につながります。
NFTS技術では従来型のマグネトロン式スパッタ(MS)法と異なり基板表面がプラズマにさらされないこと、対向ターゲット構造によりスパッタ粒子のミキシングや反応性ガスのイオン化の増加により従来技術と比較し高い成膜速度が得られると共に、良好な界面、高品質な薄膜を形成することができます。
図3は超伝導材料の1つであるPCMO薄膜をNFTS法とMS法によりそれぞれ形成したときの断面TEM像である。NFTS法では基板温度480℃においてPCMO薄膜が下部電極であるPt薄膜界面から良好な結晶構造および平坦で均質な界面が得られることが分かります。一方、通常のMS法では基板温度620℃において結晶化しますが、下部電極界面では良好な結晶が得られていません。

(a) NFTS法 480℃ (b) マグネトロン法 620℃
図3 PCMO薄膜の断面TEM像
【パッシベーション膜】 DLC膜による保護膜
DLC膜はHDDでの記録膜やヘッドの保護膜として、あるいは、産業機械を構成する部品の表面保護膜として実用化とともに特性改善の研究開発が進展しています。従来のスパッタ技術ではカーボン共有結合を膜厚方向(3次元的)に生成するために水素H2を添加しC-H結合の調節等を行なってきました。ラマン分光によりSP2結合のGバンドとSP3結合のDバンドの比率でアモルファスカーボンやDLCの結合状態を評価してきました。
ハードデイスクHDDの保護膜としてはH2を添加せず硬度の高いDLC膜であれば膜厚を2~3nmと薄くして高密度記録を達成しかつ、従来のHDDの耐久性を確保できることが報告されています。NFTS装置でカーボンターゲットを用いてArガスのみで作成したサンプルのラマン分光特性を図4にその測定データの例を示す。H2を添加せず硬度の高いDLC膜を形成するために山本等はカーボンアーク方式を提唱していますが、NFTSによれば緻密でC-C結合によるDバンドを有するDLS膜が通常のスパッタと遜色ない堆積速度で形成できます(20nm/min)。
NFTSのようにプラズマボックス内に飛散するC原子にはイオン衝突等により高いエネルギー状態が保たれかつイオン化が生じるため3次元的なC-C結合が容易に形成すると推測されます。

図4 カーボン薄膜のラマン分光特性
【金属膜】 シードCu層の成膜特性
Cu配線としてビアホールへのCuの埋め込みとして電解メッキ法が採用されており、メッキのシード層としてスパッタ法やCVD法によるCu薄膜形成技術が提案されています。しかし、CVD法ではコンタミの混入による導電性の低下等の膜質低下が懸念されます。次世代LSIでの配線には超薄膜で溝界面を乱すことの無いシード層形成技術が必要と思われます。従って、これらの分野でもNFTS法の有用性が期待されています。実験はNFTS特有の箱型空間で生じるCu+イオンによる高真空スパッタの効果、及び基板界面でのセルフバイアスによるスパッタ粒子拡散によるホール内面への被覆特性を明らかにすることを目的として行われ、プラズマ密度を高めるために直流電源に13.56MHzの高周波電源を重畳させてArガス圧7mPaでホール底径500nm、深さ1300nmのホール内面へCu膜のスパッタを試みました。
SiO2からなる溝に堆積したCu薄膜を断面SEM観察しました(図5)。表面堆積膜厚が600nmの場合、底部の膜厚は60nm、側壁への堆積は底部の60nmから上部の突出し部200nmの連続膜形成が得られました。破断SEM像から堆積表面に球面状の粒界の成長が観察されます。底部での堆積表面には20nm径、上部側壁には100nm径に成長した粒界が観察されます。なお、溝に堆積したCu薄膜は粒界が観察されない緻密な層となっています。メッキのシード層としては5nm程度の連続層がホール内壁及び低部に均一に形成されていればシード層として充分と考えられます。従って、図5に示した膜厚の1/10以下の堆積ではホール上部での突出し部は無視できる程度に均一な薄膜形成を低温で形成できることになり、特に底部における中央部の盛上りの無い平坦なシード層の形成ができるためメッキでの均一な平坦性に優れた埋め込みによる低抵抗の成膜が期待されます。

図5 Cu薄膜の断面SEM像
【磁性膜】 Co-Cr合金系磁気記録膜 (5)、(6)、(7)
Co-Cr合金薄膜を記録層とした長手記録によるハードデイスクドライブHDDは情報化社会の更なる進化を推進しており、ここ数年の記録密度の増加は年率60~100%にもなり記録に必要な粒子サイズは10nm前後まで微細化されるとともに磁気エネルギーを高める材料創生、磁区分離を制御するための材料開発や製膜技術研究が盛んです。Co-Cr合金薄膜形成では、スパッタ粒子(気相状態)が基板表面で固化(固相状態)し結晶格子配列する過渡状態での特異な性質を利用します。すなわち、粒界にCrリッチな領域と空孔などの非磁性領域を析出形成させます。これによってCoリッチな結晶磁気異方性に優れた六方細密構造HCP粒内磁区を分離形成させノイズの少ない高密度記録媒体を商品化させています。現在、1平方インチ当り記録密度は100Gビットを越えるレベルが開発対象になっています。
1平方インチ当り記録密度は50Gビットを越えるレベルでは、粒界に磁区分離を期待する長手記録では粒子の微細化は10nm領域が必須となります。しかし、その領域では粒子の磁気エネルギーが周囲の温度により不安定となる熱磁気緩和現象が大きな問題となっています。そこで長手記録方式の本質的な問題点を解決することのできる垂直磁気記録方式が注目されています。優れた垂直磁気記録膜を実現するためには、C軸配向したCoリッチHCP結晶構造(垂直磁区)とCrリッチな非磁性層のHCP結晶構造(非磁性領域)とを格子欠陥を生じることなく分離したまま垂直方向に成長させる技術が必要です。NFTS技術により、Co-Cr垂直記録薄膜形成では粒界に格子欠陥の無い多結晶薄膜の形成が出来る事を実証しました。また、粒界に格子欠陥の無い多結晶薄膜についてCoリッチな部分を選択的に溶出したサンプルをTEM観察した結果、NFTS技術は垂直方向に3~5nmサイズのCo磁区成長と磁区周囲にCrリッチな非磁性層を形成できる製膜技術であることを証明しました。
図6にCo-Cr薄膜の緻密な粒子成長の例を、従来のスパッタ技術と対比して示します。従来の製法ではCoリッチ領域とCrリッチ領域との偏析(相分離)が粒界を起点として粒内に帯状に生じているのに対して、NFTSによる偏析は粒内、粒界に関係なく微細な分散状態が観察されます。従来のスパッタ膜では、特に粒界を起点にして磁区分離するように記録膜が成長するため、島状構造の初期層から連続層となる過程で粒界のサイズは常に成長・消滅しながら粒成長しているために磁石となるCoリッチ領域と磁石を分離するCrリッチ領域とは垂直方向にランダムな配列で成長すると考察されます。このためnmサイズの微細磁区が形成されても記録ビットに対応して形成される磁極については微細磁区の集合として磁化が保存される際、周囲の不安定な磁化領域が反転(逆磁区)し易くなると考察されます。

図6 Co-Cr薄膜の緻密な粒子成長例
エフ・ティ・エス コーポレーションでは新対向ターゲット式スパッタ(NFTS)技術に関する特許を国内、海外それぞれ積極的に取得を行っています。
NFTS技術に関する現在有効な国内、海外特許をそれぞれ示します。
国内特許
JP 1862127 JP 2036461 JP 3807684 JP 3809686
JP 3510967 JP 3886209
海外特許
USP 6,156,172 USP 6,881,311 USP 6,911,123
オプトエレクトロニクス分野を中心としたスパッタリング法による薄膜作製・制御技術
【技術情報協会 2006年10月31日】
第2章 第4節 「新対向ターゲット式スパッタ装置による高品質・高速薄膜作製技術」 門倉貞夫
ディスプレイ・光学部材における薄膜製造技術
【情報機構 2007年8月30日】
第4章 第12節 「透明断熱フィルム」 門倉貞夫
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M.Naoe, S.Kadokura,"Preparation of Co-Cr-Ta films with nano-size magnetic domains for1000 kfci media",MMM 193(1999)185-191
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- 2 - |
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- 5 - |
特願平9-239236、特願平9-143590、特願平8-277683、特願平8-203322、特願平8-162676、U.S. P.A. S.N.09/088,091
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- 6 - |
直江正彦、門倉貞夫"プラズマフリースパッタCo-Cr膜における結晶子のナノ構造と極微細Coリッチ領域日本応用磁器学会、Vol.21, Suppl.S1,pp.1-4(1997)
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- 7 - |
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